【三セク協だより第61号掲載】福井の新時代を切り拓くハピラインふくい

  株式会社ハピラインふくい
     代表取締役社長
小川 俊昭

はじめに

 地域に密着した県民鉄道として、ひととまちを「ライン」でつなぐことで「しあわせ(ハピネス)」な福井県の未来をつくるという思いを込め、2022年3月、16,000件を超える応募の中から「株式会社ハピラインふくい」という社名を決定しました。インパクトのあるネーミングは、新しい時代の鉄道会社としての決意を表しています。
 2013年3月の「福井県並行在来線対策協議会」設置から、2019年8月の「福井県並行在来線準備会社」設立、そして開業に至るまで、歴史ある北陸本線の伝統を受け継ぎつつ、新たな県民の足として生まれ変わるための準備を着実に進めてきました。プロパー社員の採用、各種規程の制定、国やJRとの調整、県内市町や企業からの増資等、一つひとつの課題に社員一同全力で取り組んできた道のりは、地域の未来を支える鉄道会社としての強い決意を形にするプロセスでもありました。
 福井県は世帯あたりの自動車保有率が約1.8台と全国一位の車社会ですが、だからこそ、通勤・通学など、日常生活に欠かせない地域に密着した「県民の足」としての弊社の役割は極めて重要です。また、北陸新幹線開業により増加が見込まれる観光客やビジネス利用者など「来県者の足」としても重要な使命を担っています。「安全で安心な鉄道」「末永く親しまれ愛される鉄道」そして「選ばれる鉄道」として、地域の発展に貢献していく決意です。

ハピラインふくい車両

開業からの歩みと現状

 開業日の2024年3月16日、弊社は福井駅において開業記念出発式を開催しました。取締役会長である杉本福井県知事をはじめ、斉藤国土交通大臣、各取締役、県選出の国会議員ほかご来賓の皆様にご出席いただき、午前7時54分発の敦賀駅行き普通列車を福井駅長の出発進行の合図で見送り、新たな一歩を踏み出しました。
 開業とともに、JR西日本から福井地域鉄道部の高架下事務所の資産譲渡を受け、改修工事を経て同年12月23日より新社屋として業務を開始しています。鉄道運営の拠点として、効率的な業務体制の構築を進めています。

 開業後の利用状況については、2024年4月から2025年1月までの利用者総数が6,433,808人、1日あたりの利用者数は21,302人を記録し、経営計画で定めた目標値である1日平均2万人を5.6%上回る結果となっています。特に定期外利用は好調を維持しており、全ての月で目標値を上回り、合計で目標値を3割上回っています。一方、定期利用については、通学定期は目標値を上回っているものの、通勤定期は目標を下回る状況が続いているため、昨年10月から沿線企業等に対し、通勤時の利用促進を働きかけています。
 現在直面している課題としては、列車混雑と乗換の利便性向上が挙げられます。開業時のダイヤでは、利用者が多い通勤・通学時間帯を中心にJR時代より増便を図りましたが、一部の時間帯で混雑が発生していました。これに対しては臨時増結や臨時列車の運行で対応するとともに、2025年3月15日のダイヤ改正では、日中の敦賀駅〜福井駅間の列車増発や、平日夕方の混雑車両の編成数増加を実施しました。
 また、開業に伴うICカード利用範囲の変更により、交通系ICカードを使用したJR線との乗り継ぎに関して一部不便が生じていました。この課題については、HPやポスター、車内放送による周知を行うとともに、JR西日本との協議により、JR敦賀駅改札内への交通系ICカード用乗換改札機等の設置について合意に達しています。
 さらに、開業後初めての冬を迎えるにあたり、県境付近でのIRいしかわ鉄道との共同除雪体制を構築するとともに、県、沿線市町との情報共有、協力体制の強化を図り、安定運行の確保に努めました。

ハピラインふくい改行記念出発式

新会社ならではの挑戦

 株式会社ハピラインふくいは、敦賀から大聖寺(石川県)までの18駅84.3㎞の区間を運行しています。この路線は嶺北の人口密集区域であるあわら・坂井地区、福井地区、丹南地区を網羅しており、地域の暮らしを支える重要な交通インフラとなっています。弊社では、駅舎やパーク&ライド駐車場など、学生や通勤客が利用しやすい環境を整備しつつ、快速電車の運行等により利便性を高め、利用者の確保に取り組んでいます。
 開業後、既存駅の新たな魅力づくりにも力を入れています。福井駅構内の「みどりの窓口」跡地を活用した物販店舗の誘致や、鯖江駅では地元と連携してコンビニエンスストアの再出店を実現するなど、駅の利便性向上と賑わい創出に努めています。駅は単なる乗降場所ではなく、地域の交流拠点として新たな価値を提供できるよう取り組みを進めています。
 利用促進策としては、10月の鉄道の日に合わせた「鉄道ふくいフェスタ」の開催や、開業1周年を記念したイベントを行いました。また、沿線の「サンドーム福井」でのコンサート開催時には臨時列車を運行するなど、地域の大型イベントと連携した取り組みも積極的に行っています。こうした様々なイベントを通じて、県民の皆様に親しまれる鉄道を目指しています。

 地域との連携強化も重要な取り組みの一つです。2024年6月5日には、県内のえちぜん鉄道、福井鉄道と連携して「福井県鉄道協会」を設立しました。本協会は、県内の鉄道ネットワークを維持・高度化するとともに、各社の経営基盤強化を図り、地域鉄道の持続可能性を高めることを目的としています。昨年は、協会として合同就職説明会の開催や仕事魅力紹介のPR動画を作成するなど、人材確保の面でも協力関係を築いています。
 自治体との連携も積極的に進めています。花火大会やスポーツイベント等、駅や駅周辺で自治体等が大規模なイベントを開催する際には臨時列車を運行することにより、自治体にとっての輸送手段を提供しつつ、弊社の利用者数の増加につなげています。こうした取り組みは、地域の活性化と鉄道の持続的運営を両立させる重要な施策と考えています。
 これらの取り組みを通じて、弊社は単なる運送事業者ではなく、地域と共に歩む公共交通機関として、福井県の発展に貢献していきたいと考えています。

期待を背負う社員たち

 株式会社ハピラインふくいのプロパー社員は、2020年度4月入社の1期生を皮切りに、2025年2月1日現在で109名(運輸職63名、鉄道技術職40名、事務職6名)を数えます。会社設立から開業までの期間、JR西日本に出向し、OJTを通じて各系統の技術や安全に対する意識等を学んできました。この経験を基礎として、日々の業務に取り組んでいます。
 開業後は、JRから158名(2月1日現在)の出向者を受け入れ、技術の承継を進めています。プロパー社員の平均年齢は24歳と非常に若いのに対し、JR出向社員(平均47歳)、嘱託社員(平均66歳、現在はJR退職者のみ)はベテランぞろいです。この年齢構成を活かし、若手プロパー社員に対して、鉄道技術や仕事上の心構えを伝承する体制を整えています。
 JR西日本との協定では、開業後10年間で出向社員をゼロにすることとなっています。そのため、プロパー社員の育成は急務であり、業務の中核を担う人材の育成および育成体制の確立に力を入れています。2024年12月には、プロパー社員で初となる2名の運転士免許取得者が誕生しました。今後も運転士・車掌の養成を継続し、自社の力で安全・安定輸送を支える体制を強化していきます。
 鉄道事業は、安全を最優先とする高い技術力と責任感が求められる仕事です。多くの若手社員にとって、日々の業務は新たな挑戦の連続ですが、ベテラン社員からの指導を受けながら、着実に成長を遂げています。車両の運転・保守、線路や信号設備の保守、駅業務など、鉄道の安全運行を支える様々な技術を一つひとつ丁寧に習得していくことで、地域の足を守る責任を果たせる人材へと成長しています。
 特に、「安全最優先」の考え方は、すべての業務の基本として徹底しています。日々の点検作業から緊急時の対応訓練まで、安全確保のためのあらゆる取り組みを通じて、「安全」を守る意識と技能を高めています。
 弊社の社員一人ひとりが、地域の足を守る責任の重さを自覚し、誇りを持って業務に取り組んでいます。若さとベテランの知恵が融合する職場環境の中で、福井県の未来を支える鉄道を築いていくことに大きなやりがいを感じています。

これからの展望

 株式会社ハピラインふくいは、将来を見据えた設備投資と地域活性化への貢献を両輪として、持続可能な鉄道経営を目指しています。県内の人口が減少傾向にある中、弊社では新たな利用者の確保に向けた取り組みを進めています。高校生の利用が多く見込まれるしきぶ駅(王子保・武生駅間)や、住宅機能が集中する区域に設置する新駅(福井・森田駅間)の整備を沿線自治体と連携して推進し、利便性の向上を図っています。
 既存駅についても、モデルチェンジを進めています。使いやすく、楽しく、特徴ある駅へと改善を図るとともに、駅舎内の空きスペースの利活用などを通じて、「地元から親しまれる駅」「行ってみたくなる駅」を目指しています。森田駅では、地元公民館・森田地区文化委員会主催の「駅活用社会実験プロジェクトMoRe:Sta.(モリスタ)」の開催に協力し、チャレンジショップの出店を支援するなど、地域と一体となった駅の活性化に取り組んでいます。
 長期にわたり県民生活を支える鉄道を維持するためには、持続可能な経営基盤の確立が不可欠です。公共交通機関としての社会的責任を果たしつつ、収支改善を図る不断の努力を続けていきます。鉄道事業は投資額が膨らみがちですが、経営努力を前提に行政支援も得ながら、利便性向上や運賃収入増につながる投資、業務効率化を進めていきます。
 福井県の発展と共に歩む地域の足として、これからも皆様に愛され、選ばれる鉄道であり続けることを目指してまいります。