錦川鉄道株式会社
代表取締役社長 村野哲郎
1.はじめに
令和7年7月、私は地元の山口銀行から出向し、錦川鉄道の社長に就任しました。子供の頃から乗り物、特に鉄道が大好きだったため「お金を出しても味わえない貴重な経験」として毎日ワクワクしながら業務にあたっています。
就任以来、私が一貫して掲げてきたのは、「利用してください、お願いします」という受け身の姿勢から脱却し、「乗って楽しい錦川鉄道」をつくるという明確な方向性です。
地域鉄道を取り巻く環境が厳しさを増す中、ただ利用を呼びかけるだけでは未来を切り開くことはできません。鉄道そのものが“乗りたくなる存在”であること、そして沿線の魅力を最大限に引き出し、地域とともに価値を創り上げていくことこそが、持続可能なローカル鉄道の姿だと考えています。

夏・北河内 ひまわりと走る錦川清流線の電車
2.点と点を線、そして面に
錦川鉄道が運行する「錦川清流線」は、全国でも屈指の自然美を誇る鉄道です。清流・錦川に寄り添いながら走る車窓からは、四季折々の風景が広がり、訪れる人の心を静かに揺さぶります。春の桜並木、夏の深い緑、秋の紅葉、冬の澄んだ空気。自然の移ろいを感じながら走る列車は、単なる移動手段を超えた“体験”そのものです。しかし、この魅力が全国に十分伝わってきたかと問われれば、まだまだ伸びしろがあると感じています。
沿線には、観光資源としてのポテンシャルが豊富にあります。錦帯橋をはじめとする歴史文化、山里に息づく暮らし、地元の食、そして人の温かさ。これらは点在しているだけでなく、互いに関連し合い、深い物語を紡ぐことができる素材です。ところが、これまでその点と点が十分に結びついておらず、鉄道がその“線”としての役割を果たしきれていなかったのではないか。私はそう感じています。
鉄道は、地域の点と点をつなぐインフラです。しかし、つなぐだけでは不十分です。線として結びついた先に、地域全体が一体となった“面”の広がりを生み出すことができてこそ、鉄道の価値は最大化されます。私は、錦川鉄道がそのハブとなり、沿線の魅力を面として発信していくことが、これからの地域鉄道に求められる役割だと考えています。

清流の水面を見ながら走る列車
3.魅力発見と人財の発掘
▪️鉄道資源活性化サミット in岩国
令和7年10月、錦川鉄道は「鉄道資源活性化サミット in 岩国」に参加しました。廃線となった路線、工事途中で終わった未成線、災害により休止を余儀なくされながらも復旧を目指す路線など、全国各地から多様な立場の鉄道会社や地域団体が岩国に集まりました。
サミットでは、鉄道が地域にもたらす価値、鉄道を守り活かすための知恵、そして未来への展望について、活発な議論が交わされました。鉄道は単なる交通手段ではなく、地域の歴史や文化、人々の暮らしを支える“社会的資産”であるという認識が、参加者の間で共有されました。
インターネット上でも、このサミットは「鉄道の未来を考える意義深い取り組み」として多くの鉄道ファンや地域メディアに取り上げられ、錦川鉄道の存在を全国に発信する大きな機会となりました。
▪️錦川鉄道ファン感謝DAY
同じく10月に実施した「錦川鉄道ファン感謝DAY」では、1日限定で乗車無料とし、多くの方に錦川鉄道の魅力を体感していただきました。普段利用されている地域の皆さまはもちろん、鉄道ファンや観光客の方々にもご乗車いただき、市内は終日、笑顔と活気に満ちていました。
この取り組みは、単なる無料開放ではありません。私たちが目指す「乗って楽しい鉄道」を実際に体験していただく場として企画したものです。SNS上でも「清流線の景色が素晴らしかった」「また乗りに行きたい」という声が多く寄せられ、錦川鉄道の魅力が広く発信されるきっかけとなりました。

全国鉄道資源活性化サミット in 岩国パンフレット
▪️地域おこし協力隊員を“仲間”として迎え入れ、未来を描く専属チームを発足
今年1月、錦川鉄道は新たな挑戦として、地域おこし協力隊員を当社の正規社員として採用しました。地域おこし協力隊は、地域の課題解決や魅力発信に取り組む存在として全国で活躍していますが、鉄道会社が直接採用し、ブランディングや企画を担う専属チームとして位置づける例は多くありません。
私たちは、鉄道の未来をつくるためには、外部の視点と地域への深い愛着を併せ持つ人材が不可欠だと考えました。協力隊員として地域に入り、地域の空気を肌で感じながら活動してきた彼らは、まさにその条件を満たす存在です。
新たに発足した専属チームは、
・錦川鉄道のブランド価値の再定義
・数年先を見据えた誘客戦略
・魅力的なグッズ開発
・体験型観光やイベントの企画
・SNSやデジタル媒体を活用した情報発信
など、多岐にわたる役割を担います。
これまでのローカル鉄道は、どうしても“日々の運行を維持すること”に力を割かざるを得ず、中長期的な企画やブランディングに十分なリソースを割けないという課題がありました。しかし、この専属チームの誕生により、錦川鉄道は「未来を描くための時間と人財」を手に入れることができました。

錦川清流線ファン感謝DAYパンフレット
4.数年先を見据えた誘客・利用促進へ
専属チームの発足により、錦川鉄道はこれまで以上に“未来志向の経営”へと舵を切ることができました。鉄道は一朝一夕で利用者が増えるものではありません。だからこそ、数年先を見据えた計画的な取り組みが必要です。
沿線の観光資源を組み合わせた新しい旅のモデルコース、地域の文化と連携した体験型コンテンツ、若い世代にも響くデザイン性の高いグッズ、SNSを活用したストーリー性のある情報発信、地域事業者との協働による新たな価値創出。こうした取り組みを継続的に積み重ねることで、錦川鉄道は“乗って楽しい鉄道”としての存在感を確立していきます。
専属チームは、単なる企画担当ではありません。“錦川鉄道の未来を描くクリエイティブパートナー”です。
彼らの視点と地域の皆さまの力が合わさることで、錦川清流線はこれまで以上に魅力的な鉄道へと進化していくはずです。
5.未来へ向けて
私は、錦川鉄道の未来に大きな可能性を感じています。沿線の自然、文化、人、そして鉄道そのものの魅力。これらを丁寧に磨き上げ、つなぎ合わせ、面として発信していくことで、錦川清流線は地域の誇りとして輝き続けることができると信じています。
「乗って楽しい鉄道」をつくることは、単なるサービス向上ではありません。地域の魅力を再発見し、地域の未来をともにつくるプロセスそのものです。鉄道が地域の活力を生み出し、人と人、人と地域をつなぐ存在となるよう、これからも挑戦を続けてまいります。
錦川鉄道は、これからも地域の皆さまとともに歩み続けます。清流のように澄んだ未来を目指して、私たちは前へ進みます。