IRいしかわ鉄道株式会社
代表取締役社長 内田滋一
○はじめに
いつもお世話になります。IRいしかわ鉄道の内田と申します。令和6年6月末から社長を務めております。早いもので当社全線開業から2年となります。ご存知かと思いますが、当社のあらましをおさらいしてみます。
当社は平成27年3月14日の北陸新幹線長野〜金沢間開業とともに旧北陸本線金沢以東の石川県内区間(金沢〜倶利伽羅間)17.8㎞を営業区間として営業開始いたしました。さらに2024年3月16日の北陸新幹線敦賀延伸に伴い、金沢以西の県内区間(金沢〜大聖寺間)46.4㎞を加え、計64.2㎞を営業区間とする鉄道として全線開業を果たしたところです。
東はあいの風とやま鉄道及びJR七尾線と、西はハピラインふくいと相互乗り入れしている路線となります。
県都金沢駅を中心に旧北陸本線を引き継いだ「地方都市近郊鉄道」の性格を持つ路線であることから一日の利用者は約5万人であり三セクとしては多くのお客様にご利用いただいているところです。
とは言え、特急列車が走らなくなり採算悪化が見込まれるためJRが経営から手を引いた路線ですので、基本的に赤字路線であり当然自治体の支援なしには立ち行かない三セク鉄道ということになります。
○「IRなかなかいいね」と応援してもらえる会社に
全線開業により沿線自治体数は2市町から7市町に増加しました。路線維持を第一の使命とする並行在来線会社として、沿線市町の首長の皆さんに取締役にご就任いただくとともに、これらの自治体には出資や補助をいただいているところです。
当面10年間の支援にメドをつけていただいているのですが、こうした支援を続けていただくためには住民の理解が欠かせません。「IRなかなかいいね!」、「応援したいね!」と思ってもらえるよういろいろと取り組んでいます。一端をご紹介したいと思います。
○まずはトイレの洋式化
私たちが路線を引き継いだ北陸本線は安全対策投資についてはしっかりとしてくださっていましたが、そのほかの設備投資については当時の優先順位の関係でできないことも多かったようです。
駅のトイレひとつとっても、会社所有のものは主要駅以外は老朽化した和式でした。聞くところによると、改札の外にあるトイレはお客様以外も利用できるものでありJRとしてお金をかけられない。必要なら自治体にお願いしたいとの考えがあったようです。言うまでもなく駅は鉄道サービスを利用する方々の玄関であり、ある意味会社の顔です。そこで、まずは和式トイレを順次洋式化することにしました。トイレ清掃も委託頻度を増やして清潔さを保つようにしています。地味なことですが住民の皆さんから喜んでいただいています。
○特急列車廃止を契機に自治体と連携して駅出入口増設
私が就任時に自治体による駅周辺整備計画がいくつか進展していました。小松駅の隣にある粟津駅では駅前広場と自由通路(跨線橋)の整備計画でした。粟津駅は線路の東側に駅舎と改札があり西側にはありません。この計画では西側の出入口・改札の増設は予定されておらず、西側の利用者は自由通路を渡ってから従来通り東側の改札を利用するという計画でした。
2面4線の駅のため仮に西口設置となれば改札内にも跨線橋整備が必要となり経費面で困難とのことでした。ただ、特急がなくなったことから線路の一部を廃止できれば改札内跨線橋は不要となり少額投資で西口設置できるのではないかとの思いを持ちました。
社内検討やJR貨物さんとの協議を経て東西の2線廃止可能という結論に至り、小松市さんとも一定の経費負担追加・工期延長について合意が整い、晴れて西口設置となりました。地域の皆さんにも喜んでいただけると思いますし、当社としてもご利用増に期待しているところです。
○22年ぶりの快速列車運行で「金沢通勤圏拡大」
令和7年3月のダイヤ改正で金沢以西区間としては22年ぶりの快速列車を設定しました。遠隔地である加賀市や小松市南部を「金沢通勤圏」にしたいとの思いからです。通勤時間帯に朝下り1本、夕上り1本とわずか一往復ですが、朝の便では始発の大聖寺駅から金沢駅への所要時間を54分から38分に16分短縮できました。自動車での移動時間を16分短縮しようとすると道路改良に膨大な経費と時間がかかってしまいますが、既存インフラの鉄道をひと工夫することでわずかな追加経費で時間短縮できました。自動車では約50キロの道のりですから自動車通勤はかなりしんどい距離です。
加賀市は石川県の金沢以南の自治体で唯一「消滅可能性都市」とされ人口減少が地域にとって大きな課題となっています。駅間所要時間を38分にできたことで「加賀市は金沢通勤圏」と感じていただき、少しでも人口減少対策にお役に立てればうれしいと考えています。

快速列車運行(大聖寺駅出発式)
○小学生100円乗り放題「子育て応援スマイルきっぷ」の発売
あるきっかけで小田急電鉄が子育て支援のために小児IC運賃50円均一を実施していると知りました。最大9割引きとのことです。大手私鉄で黒字経営なのでしょうが大変思い切った割引で不採算覚悟と思えます。驚いていろいろ調べたところ全国でそういう動きがたくさん出てきていることがわかりました。少子化が日本全体の社会的課題となっていることから公的セクターではない純粋な民間セクターでも子育て支援をしようということだそうです。さっそく社内で同様のことができないか検討してもらったところ、「ICカードでやるためにはシステム改修に多額の経費と時間がかかり現実的ではない」との回答。一方で「フリー切符の形ならば低コスト短時間で準備できる」とのこと。当社社員頼りになります!
検討を重ねた結果、片道50円相当の小学生100円フリー切符とする方針を決定。毎日ではなく週末と夏休みなど期間限定です。また全区間の場合割引率が大きすぎるので、全19駅のうち10駅程度利用可とする区間を3つ設定しその区間内を100円乗り放題とすることにしました。割引率は最大85%。
小田急にはない取り組みとして通常は大人料金となる中学生も200円、同伴する大人も400円に割り引くことに。併せて19駅全線利用可の200円、400円、800円切符も発売することに。おかげさまでかなり好評です。お子様が鉄道に親しんでいただくことで将来の需要喚起の面も期待しています。

スマイルきっぷ
○沿線の「目的地」PRで利用促進
鉄道利用促進策の定番のひとつに沿線の「目的地」化があると思います。当社は新幹線駅でもある金沢駅がダントツの「目的地」なのですが遠方の方は新幹線利用ですので当社線利用になりません。JR時代はそれでよかったのでしょうが、当社としては金沢駅以外の「目的地」をアピールし当社線の利用促進を図る必要があります。当社が「目的地」としてPRしている事例を紹介します。
①Jリーグスタジアム「金沢ゴーゴーカレースタジアム」(東金沢駅)
令和6年2月、当社線全線開業とほぼ同時期にJリーグ傘下ツエーゲン金沢のホームとして「金沢ゴーゴーカレースタジアム」が開場しました。当社線東金沢駅から徒歩15分です。アウェーでの応援に駆け付ける他県の方はもちろん、車利用の多い地元の方にも「飲んでも大丈夫ですよ〜。」などと鉄道利用での観戦をアピールしています。東金沢駅をチームカラーである真っ赤なポスターで染めてホームチームを応援しています。

東金沢駅におけるゴースタPR
②ドクターイエローに会える「トレインパーク白山」(加賀笠間駅)
トレインパーク白山は新幹線の延伸開業に併せて地元白山市が設置したもので、新幹線「白山総合車両所」に隣接しています。当社線加賀笠間駅から徒歩15分です。
コンパクトな施設ですが全国でもここでしか体験できない魅力がつまった施設で、先日は鉄道ファンである将棋の藤井聡太6冠が1時間もかけて見学し「ユニークな施設ですね」と喜んだそうです。
(魅力1) 1両しかないドクターイエロー(T3編成)に会える
玄関前無料エリアにドーンと展示されています。
(魅力2) 本線を走行する新幹線を間近で見ることができる
見学用の無料エリアには通過時刻のわかる時刻表も設置
(魅力3) 新幹線総合車両所の日常的な作業の一部を見学できる
有料エリア200円入場券があれば連絡通路を渡って見学可
(魅力4) 中学生以下無料。有料エリアには新幹線W7系運転シミュレーターも

トレインパーク白山とドクターイエロー
○他社とも連携して広域観光集客も
通勤・通学・買い物など地元の方の日常生活路線としての性格が強い当社ですが、隣県会社と連携して広域観光集客にも取り組んでいます。いくつか事例を紹介します。
①北陸3県2Dayパス(週末など2日間2800円乗り放題)
新幹線敦賀延伸に伴い営業開始したハピラインふくいさん、あいの風とやま鉄道さんと連携して発売しています。2日間で2800円3社エリア乗り放題という破格の条件で大好評。乗り鉄の皆さんに喜んでいただいています。

北陸3県2dayパス
②観光列車の広域乗り入れ
年1回程度ですが、他社さんの所有する観光列車に乗り入れていただくツアーを実施して沿線観光の魅力を全国にアピールしています。令和6年度はあいの風とやま鉄道の「一万三千尺物語」、令和7年度はえちごトキめき鉄道の「雪月花」に乗り入れていただき、大変好評でした。

観光列車(雪月花)乗り入れ (1)

観光列車(雪月花)乗り入れ (2)
③15年ぶりとなる普通列車の3県直通運転
令和8年3月14日のダイヤ改正で15年ぶりとなる福井―金沢―富山間の直通普通列車を上下各1便設定しました。鉄道ファンの方からの反響は上々。北陸観光の誘因となればうれしいですね。
○おわりに
人口減少はこれからますます加速しそうです。人手不足や経費の高騰も続いています。経営環境は厳しいですが、今後とも身の丈の範囲で「IRなかなかいいね」、「応援したいね」と言っていただける会社となれるよう社員一同頑張ってまいります。