【三セク協だより第61号掲載】ノスタルジックな風景と海風が漂う松浦鉄道新発見の旅!!

松浦鉄道株式会社
     取締役総務部長兼営業広報部長
馬場 俊二

1.はじめに

 私の朝は、佐世保富士とも呼ばれる烏帽子岳の裾野にある花園町高架橋から聞こえてくる「ガタン、コトン」と心地良いリズム音と「ファーン」と市街地の生活音として溶け込んだ気笛から一日が始まります。
 MRの愛称で親しまれている松浦鉄道は、有田駅( 佐賀県有田町)を起点に、北松浦半島を海岸線に沿い、伊万里・松浦・平戸3 市と運輸部がある佐々町を経由して、佐世保駅(長崎県佐世保市)に至る営業キロ93.8㎞、57駅を結ぶ鉄道になりますが、「今日も元気に走っているな〜 よしっ!」とスイッチが入る瞬間です。
 私は、長崎県諫早市の出身で島原鉄道の沿線に実家がある環境で過ごしました。私にとってローカル線はすごく身近な存在ですが、永年、金融関係に携わったきた私が一昨年入社するまで列車は時刻通りに動くのが当たり前のこととの感覚しかありませんでした。入社して初めて、運転課・車両課・工務課・駅務課など安全運行を第一主義とする運営、また、自然災害や車両故障など発生した場合の緊急措置対応に触れることで、「定時で走っていること自体が凄いことだ・このことを世間にもっと知ってもらいたい」と衝動に駆られる瞬間が沸き起こってきます。
 前置きが少々長くなりましたが、今回の投稿では、私が入社して気づいたMRならではの出来事や沿線の魅力、更にイベント活動等と中心にご紹介いたします。

花園町高架橋とMR-600形

花園町高架橋とMR-600形

2.沿線学校と連携した取組

 朝は、本社がある佐世保駅までMRで通勤しますが、乗込む中佐世保駅で目を引くのが色鮮やかな駅壁画です。この壁画は昨年6月、有田町蔵宿駅の駅カフェ「薪の宿から」のオーナーの紹介で、東京在住のミューラリストに佐世保市のグルメをペインティングして頂き、佐々駅にも甲子園で春夏通じて長崎県勢初の全国制覇を成し遂げた清峰高等学校とのコラボで佐々町のイメージを施したアートが昨年10月に完成しました。

中佐世保駅とレトロン号

中佐世保駅とレトロン号

 中佐世保駅から次駅の佐世保中央駅までは約200mと鉄道(路面電車を除く)としては「日本一距離の短い駅間」として有名で、国道35号線を見下ろしてモノレールのように走っていく様子は、ぜひ見てほしいワンシーンです。終点の佐世保駅では、高校生が参考書を片手に車両に所せましと佐々方面の列車に乗り込みます。新入学シーズンは、多客による影響で混乱しますが、新入生の適応力と運転士のサポートにより混雑が自然と緩和され、平常に戻ります。
 さて、当社は、沿線に多くの高校を抱えており、輸送人員の45%を占める通学定期利用者は当社の強みです。一方で、人口減少に歯止めがかからず厳しい経営環境の中、地域密着型の生活路線としての役割を鑑み、生徒数減少に寄り添えるような自治体との連携を模索中です。そのなかで、沿線学校の最寄り駅となっている駅名標に学校名を標示するリニューアル事業を昨年2月に実施し、デザイン制作には沿線学校にご協力頂きました。ホームがメイクアップされたことで新聞やテレビに大きく取りあげられ、これまで以上にマイステーション意識が育まれ、駅周辺の美化活動も取り組んで頂いています。

 二つ目の取組として地元報道局との共同企画で、ラジオによる応援キャンペーンCM「MR松浦鉄沿線情報!」の放送になります。こちらも沿線高校の生徒により学校や地元の魅力を情報発信して頂いています。三つ目が沿線の高校生による列車を活用した取組です。長崎県県北振興局と地元金融機関にて昨年11月に地元活性化目的で開催され、列車に乗って生まれ育った地元の自慢を紹介する事業になります。佐世保・平戸・松浦・伊万里4市のエリアを定期列車に乗って頂きました。同様な取組で、佐世保市地域未来共創部との共同企画として、佐世保市内の高校生を中心とした地域活性化グループにて今年2月、エンタメ中心のイベントが列車内で実施されました。高校生では初の貸切列車ということで、地方紙に掲載され、動画配信されるなど、今後の相乗効果を期待しています。

清峰高校前駅の駅名標

清峰高校前駅の駅名標

3.イベント企画列車の取組

 コロナ禍により中止を余儀なくされていた夏の定番企画、ビール列車を4年振りに満を持して令和5年に復活させました。また、コロナ禍の新企画として開始した秋のアフタヌーンティー列車に加え、昨年からボージョレヌーボ解禁日のワイン列車、更に、沿線の地酒を提供するほろ酔い列車を早春の企画列車として1〜2本を新たに運行しています。

 ビール列車ですが、開業当初から毎年50本以上を運行していましたが、昨今の運転士不足や車両検査の増加により、従来のような車両の活用が困難な状況にあります。この背景から本数を少なくする変わりにシーズン通して、お客様に色々なスタイルの楽しみ方を提供しています。なお、ほろ酔い列車では、まつうら観光物産協会の協力でアジフライを松浦駅で、平戸観光協会の協力で飛魚のおつまみ「そのまんまあご」をたびら平口駅で提供するなど観光部門とも連携を図っています。

ワイン列車 車内の様子

ワイン列車 車内の様子

4.沿線イベント等の取組

 沿線各地での花火大会開催に応じて、臨時列車や増結、臨時の乗車券販売所を設けて対応しています。特に、9万人規模のさせぼシーサイドフェスティバルでは、社員総出で多客対応しています。イベント会場から最寄り駅の大学駅ホームは、高台にあり危険を伴うため、お客様の誘導や警備で緊張感と暑さとの闘いになります。一昨年には、最大限の増結・臨時列車2便を運行しましたが、大学駅で多数のお客様の積み残しが発生したことから、最終便の後、急遽追加で3両編成の臨時列車を運行した結果、約200名の帰宅困難者の方を救済することができ、結果、運輸収入の増加にも繋がり、地元紙には称賛の記事が掲載されました。
     
 佐賀県伊万里市の「浦ノ崎駅桜の駅まつり」にはグッズ販売等で参画しています。桜の駅まつり実行委員会の努力により「桜の駅」として全国的に知れ渡ることとなり、朝の情報番組では、桜&鉄道の絶景スポットとして、全国4位に選ばれて紹介されました。桜の開花シーズンには多くの観光客がMRを利用して来場され賑わいます。
 お隣の佐賀県有田町ではゴールデンウィーク九州No.1の来場者を誇る「有田陶器市」が毎年開催され多くのお客さまが有田駅をご利用されるので、ホーム監視や駅窓口での対応に追われます。この有田陶器市の開催を目前に鉄道むすめ「西浦ありさ」の「有田町初代観光大使」が佐賀県有田町PRを行い初アニメ化されました。今後も西浦ありさと沿線自治体の魅力を発信したいと考えています。

大学駅でのホームの様子

大学駅でのホームの様子

5.事業者と連携した取組

九州MaaSの事業開始に伴い、デジタルチケットをバス会社とのコラボによる1日乗車券、伊万里と有田間の1日乗車券「二陶巡り旅」を期間限定で販売し、バス会社とのコラボチケットは、期限延長し、長崎県北・佐賀県西部エリアを観光で訪れるお客様がシームレスな移動が可能となるよう商品をラインナップしてます。
 昨年6月、『味ぽんが松浦鉄道「アジフライの聖地松浦号」をジャック?!』と題してラッピング列車を施し、松浦駅にて出発式を開催しました。当日は、アジフライの無料配布、更に、まつうら観光物産協会による駅ミニマルシェが開催され、多くのメディアに取り上げて頂きました。

 第三セクター等都道府県協議会情報交換会が、今年度は長崎県が幹事となり、現地視察研修として、レトロン号の愛称で親しまれている貸切列車に乗車頂き、佐々車両基地では、アジフライ号を紹介した次第です。

松浦駅での出発式の様子

松浦駅での出発式の様子

6.沿線の魅力発信

 松浦鉄道の魅力は、のどかな田園や雄大な玄海灘、ビルが立ち並ぶ市街地など移り変わる風景を車窓から楽しめ、海山の幸や地酒・温泉など満載です。日本一距離の短い駅間に続き、2つ目の一番が、鉄道(モノレール除く)のなかで「日本最西端の駅」として有名な、たびら平戸口駅です。もう一つ、国鉄時代の古い駅名標や写真を展示している「鉄道博物館」があり、訪問証明書を販売しています。今年、開設九十周年となることから何等かのイベントを計画したいと考えています。
 沿線巡りといえばMRウォーキングです。列車に乗車し、駅を起点に社員がエスコートしての集合型イベントで、佐賀・長崎両県の健康アプリと連携し、参加者にポイント還元しています。コロナ禍等の影響で参加者が減ってきたこともあり自由に好きな時間を使ってライド&ウォークできるよう、沿線6自治体から万遍なくウォーキングコースを案内するマップを令和5年に作成しました。利用促進と健康を進めてきましたが、このタイミングで地方紙から特集記事の提案があり、9日連続の連載企画として当社の社員がウォーキングコースを記者と一緒に歩いて、紙面で述べる記事が掲載されました。佐世保市の昨年10月に国指定の特別史跡として指定された福井洞窟や潜竜ヶ滝、河津桜やシロウオ漁で有名な佐々町の佐々川河川敷、平戸市にある国指定重要文化財の田平天主堂や平戸大橋、「青島かまぼこ」が土産品として人気のある松浦市の青島など、地元の魅力と社員の元気な姿が発信でき、当社として有難い副産物となりました。

7.おわりに

 昨年10月から平均19%近い運賃改定を実施しました。沿線人口の減少により鉄道利用者が減少している事、鉄道施設老朽化に加え、資材価格・燃料軽油の高騰、人件費の上昇等でコストが増大し、収支が悪化している事から苦渋の選択となりました。公共交通としての重要性が年々増すなか、社員一丸となって奮闘する社員のドキュメンタリーをいつか製作したいと内心想っています。線路を伝って、行きたい場所に連れて行ってくれるMR「どんな時も望む方へ導いてくれるMRがそばにいる」単なる移動手段でなく、その人の想いも運んでくれる、そんな松浦鉄道が私は大好きです。その想いを形にしたのが松浦鉄道新発見の旅と銘打って、新たに発行した沿線の魅力がたっぷり詰まったガイドブック「松鉄新旅」になります。是非、この機会に松浦鉄道の周遊をお待ち致しております。

新しいガイドブック「松鉄新旅」

新しいガイドブック「松鉄新旅」