【三セク協だより第57号掲載】チャレンジ精神で鉄道を後世へ!!

野岩鉄道「会津鬼怒川線」とは!?

いきなりですが、皆さんは野岩鉄道がどこを走っているかご存じでしょうか。正解は、栃木県日光市の東武鉄道鬼怒川線の終点・新藤原駅と、福島県南会津町の会津鉄道の終点・会津高原尾瀬口駅を結ぶ30.7kmの路線です。両社に挟まれて我ながら地味な存在だと思いますが、実は大自然の中を縫うようにして走る魅力たっぷりの路線なんです。今日はそんな野岩鉄道をご紹介します。

悲願の開通

当線は、明治24年に始まった建設運動に端を発し、国鉄改革やそれに伴う建設凍結といった紆余曲折を経たものの、父祖三代に渡る願いをのせ昭和61年10月9日に第三セクターの新規路線として開業しました。当初は「生活路線・地方幹線鉄道・観光開発路線」として、会津地方と首都圏を結んで政治・経済・文化の交流を促し、人口流出と過疎化の進行に歯止めをかけ、観光客の大幅な増加に貢献するものと大きく期待されました。

利用客の減少

開業ブームと好景気に支えられ、開業翌年の利用人員が100万人を超えるなど順調な滑り出しを見せたものの、ブームが去りバブル景気が崩壊すると状況が一変、雲行きが怪しくなります。もともと沿線人口が希薄な地域でしたが、平成7年から令和2年までの25年間に日光市の人口は22.3%減、南会津郡の人口は33.6%減となりました。また、65歳以上の高齢化率は日光市が30%、南会津郡が40%を超えており、少子高齢化とそれに伴う人口減少が想定を上回るスピードで進行していきます。さらに、全国トップレベルの自家用車保有率の高さや、道路環境の改善(磐越自動車道の開通、国道121号線の改良、国道289号線甲子トンネルの開通等)が進んだことなどにより、首都圏への足として郡山や白河へ車で出て東北新幹線が利用されるようになるなど、経営環境は厳しさを増していきます。そこに追い打ちをかけたのが、東日本大震災、関東・東北豪雨、そして新型コロナウイルスの感染拡大でした。

コロナ禍における苦悩

皆さんご承知のとおり、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「緊急事態宣言」および「まん延防止等重点措置」が発出されたことにより人の動きが止まりました。誘客・宣伝することが“悪”と捉えられるような世の中になり、他社では駅に掲出したポスターにまでご意見を頂いたという話も聞きました。このため、当社の目玉である沿線散歩や雪見列車、旅行会社による団体ツアーなどは中止せざるを得ませんでした。その結果、コロナの影響をまともに受けた令和2年度の輸送人員は令和元年度(この時点で既にピークの平成3年度からは72%減なのですが…。)の半分以下となる約14万5千人にまで落ち込みました。観光利用のお客様が98%を占める当社にとっては絶体絶命のピンチです。そこで、昨年3月、余剰となっていた輸送力の適正化と経費削減のため、開業以来維持してきた列車本数を4割削除するダイヤ改正を実施、それに伴って保有車両1編成2両を廃車にしました。これは、利用されるお客様にご不便をおかけすることになるほか「不便だから行くのをやめよう」という選択にもつながりかねず、まさに苦渋の決断でした。

クラウドファンディングによる6050型車両改修にチャレンジ!

そうは言っても、この状況をただ指をくわえて見ている訳にはいきません。沿線の利用者が少ないならば、他の所から乗りに来ていただかなければなりません。そこで「6050型車両」に着目しました。

6050型車両は野岩鉄道開業を控えた昭和60年に登場し、車内には座り心地のいいボックスシートを配置、窓際には飲み物や弁当が置ける折りたたみテーブルを備え、トイレも設置されるなど、旅行気分を味わえる車両として人気があります。(ちなみに私は、レトロなコンプレッサーと直流モーターの音が大好きです。)かつては東武鉄道・会津鉄道・野岩鉄道で同じ形式の車両を保有、33編成66本の陣容を誇り、浅草〜会津田島駅間直通の快速としても運転していましたので、ご乗車になったかたもいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、残念ながら徐々に活躍の場を狭め、佐久園3月のダイヤ改正でついに東武鉄道と会津鉄道の定期運用が消滅し、現在は当社の車両が鬼怒川温泉・新藤原〜会津高原尾瀬口駅間を1日5往復するのみのまさに“希少価値”となっています。これを活かし、車両撮影会付きの貸切列車や、秋の紅葉時期や年末年始には臨時列車を運行したり、6050型をデザインしたオリジナルグッズを販売したりして、皆様に少しでも喜んでいただけるよう努力しています。

とは言え、登場から36年以上が経過し、車体の劣化が日々進行していることは否めません。何とか回収したい、でも費用が捻出できない…。そこで私たちは「クラウドファンディング」に挑戦することにしました。期間は10月7日まで、目標金額は1,500万円。オール・オア・ナッシング方式のため、目標金額に達しなければ1円も受け取れません。「このご時世、本当に支援してくださる方がいるのか。」そんな懐疑的な気持ちを抱えていたのは事実ですが、とにかく改修内容のすり合わせやリターン品の準備なども並行して進めながら、昨年の8月10日にクラウドファンディングがスタートしました。

すると私たちの不安をよそに、初日だけで目標金額の10%を突破し、開始からわずか10日後には50%を突破したのです。「これは行けるかもしれない!?」そんな空気が車内に流れ始め、不安から期待に変わっていきます。弊社としてもSNSを活用し、社長自らツイートするなど情報発信に努めました。(ちなみに8月23日のツイートは4,800を超える「いいね!」をいただきました。)さらにありがたいことに、“ローカル鉄道の挑戦”ということで、テレビ・新聞等のマスメディアにも多数取り上げていただきました。その結果、鉄道ファンの方々はもとより、沿線自治体などからもご支援いただき、8月23日には1,000万円を突破、目標達成が期待から確信に変わりました。そして9月13日、募集期間半ばにして見事目目標金額を達成することができたのです。

その後設定したネクストゴールには惜しくも届かなかったものの、最終的に、1,107名もの方からのご支援をいただきました。「6050型が、そして野岩鉄道が、皆様にこれほど愛されているんだ。」ということを改めて実感するとともに、「期待に応えなければ。」という使命感で身の引き締まる思いです。本当にありがとうございました。皆様からいただいた温かいご支援については、決して無駄にすることのないよう、車両改修に使わせていただきます。

乗って楽しい野岩鉄道・会津鬼怒川線へ!!

車両改修については、保有車両のうち1両編成(61103号車)を“乗って楽しい車両”にするため、次のようなことをしています。

模擬運転台の設置

廃車となった車両の“本物の運転台”を設置し、どなたでも運転手気分を味わっていただけます。特に、鉄道ファンの方やお子様に人気となりそうです。

畳座席の設置

小さなお子様はなかなか大人しく席に座っていてくれませんよね(泣)。畳座席なら、食事をしたりゲームをしたりしながらより楽しく過ごせるので、喜んでいただけるのではないでしょうか。

自転車スペース・多機能スペースの整備

近年、サイクリングの人気が高まっているようです。日光には世界遺産や数多くの観光名所があり、そのエリアをめぐるコースが人気です。当社では既に自転車をそのまま車内に持ち込める「サイクルトレイン(事前申込制)」を実施していますが、より便利に使っていただけそうです。

もう1編成はこのまま残ります。「オリジナルがよかったのに…。」という6050型ファンの方にもまだまだお楽しみいただけます。

もちろん、野岩鉄道の魅力は車両だけでなく、沿線の大自然です。四季折々の景色、特に秋の紅葉は見事です。会津高原尾瀬口駅は、春から秋にかけては尾瀬、冬は会津高原スキー場への玄関口となっています。そして、何と言っても川治・場西川など沿線に点在する温泉に浸かれば、日頃の疲れを癒してくれることでしょう。さらに会津鉄道に乗り継げば、会津若松・喜多方などの会津地方への魅力的な旅がまだまだ広がります。

いつ来ても魅力たっぷりの野岩鉄道沿線に、ぜひお出かけください。

野岩鉄道株式会社 https://3sec-tetsudou.jp/company/46