第三セクター鉄道等協議会のお知らせ

【三セク鉄道だより第64号掲載】線路設備老朽化への由利高原鉄道の闘い

由利高原鉄道 運輸部工務所長 進藤巧政

■由利高原鉄道㈱の現状

由利高原鉄道は、秋田県内陸部の横手と沿岸部の本荘を結ぶ横荘鉄道構想を実現すべく、その西側部分として建設され、大正11年8月に今の由利高原鉄道の営業キロの半分にあたる羽後本荘〜前郷間が民営鉄道として開業しました。昭和12年9月には、同区間が国有化され、翌年の昭和13年10月には前郷〜羽後矢島間が延長され、現在の由利高原鉄道の前身となる国鉄矢島線となりました。その後、昭和56年9月に国鉄矢島線は第1次赤字廃止選定路線となりましたが、地域の存続運動を経て、昭和60年10月に現在の第3セクター由利高原鉄道として営業を開始しました。開業に合わせ、新駅も作られ、沿線地域にとってなくてはならない鉄道となり、令和7年10月には開業40周年を迎えました。

一方において、線路設備は国鉄から継承してからほとんど更新されてこなかったことから、レール、マクラギ、道床など、線路を構成する全ての設備が著しく老朽化しています。中には、旧国鉄時代の設備もかなり存在し、老朽化への対応が急務となっています。線路設備の交換には多額の費用を要するため、検査の適切な実施による状況の把握、管理により計画的に不良個所の解消をしてこなければならなかったのですが、それが長い間行われてこなかったことがその原因と考えられます。

261001【由利高原鉄道㈱】① 鳥海山を背景に颯爽と走る由利鉄列車

鳥海山を背景に颯爽と走る由利鉄列車

■線路設備の課題

線路設備の健全さは列車の安全運行に大きく影響することから、早急な設備更新が必要な状況ですが、全ての設備を一斉に更新できるかと言えば、当然ながらできるはずはありません。しかし、列車の運行を止める訳にはいかないことは言うまでもないことです。このジレンマから脱するための取り組みが喫緊の課題となりました。

全ての設備を一気に更新できないのであれば何を優先すべきか、どのような方法を取れば安全運行を確保しながら効果的に設備更新ができるのか決定する必要があります。そのために最初に必要とされたことは正確な設備台帳を作成することでした。各設備を個別具体的に把握できる台帳を整備することに現在も取り組んでいるところです。

正確な台帳を作成するためには、正しい知識に基づいた検査が必要です。そのため定期的な勉強会を行っています。検査は多岐にわたりますので年に1回行うのではなく、各検査の実施直前に特化して行っています。多くの事をまとめて学習させるのではなく、勉強会と実務を個別に組み合わせることで少しずつ確実に経験と知識を蓄えさせることを狙っています。技術の習得と継承もまた喫緊の課題となっています。

■線路設備の修繕対策

線路を構成する設備の老朽化が顕在化している状況から、優先順位を決める必要がありました。最初に考えたのは、軌道変位による安全運行阻害でした。老朽化による設備の劣化が軌道の変位に大きく影響するだろうことは容易に想像できることから、軌道変位検査(線路の落ち込みや曲がり、ねじれ等を調べる検査)から一定の数値を超えた箇所を抽出したところ、予算上到底すべての修繕ができないほどの個所数であることがわかり、手を入れることができない箇所は徐行の措置を取りました。原因を調べてみると、修繕を必要とする箇所の大部分はレールの継目の落ち込みであり、マクラギの不良も著しいことが分かったことから、同箇所の継目落対策として継目マクラギを含む継目前後のマクラギのPCマクラギ化を実施しました。その結果、一定の数値を超える箇所は4分の1程度に急減し、現在に至っても大きな変化がないことから、不良個所の修繕ができる状態になっています。

261001【由利高原鉄道㈱】② 軌道修繕 基準値・目標値発生比較グラフ

軌道修繕 基準値・目標値発生比較グラフ

軌道がある程度安定した状態になったことから、レール、マクラギ、道床の軌道を構成する設備の更新の検討を行いました。レールは経年が60年を超えるような箇所が散在し、中でも弱小レールとされる50PSレールが約4,500mあり、交換を急がなければなりません。その他、損傷レールも少なからず存在することや摩耗交換も行わなければならない状態で計画的に対応していかなければならない状況です。

一方マクラギは不良率が約30%となっており、不良木マクラギの総本数は約9,000本です。目標とする不良率は15%程度であることから、今後5,000本程度のPCマクラギが必要になります。また、道床の殆どはふるい砂利で土砂が混入しており、道床の砕石化も進めていかなければなりません。

設備更新の優先順位を決定する中で、まずはレールをと考えましたが、マクラギ不良が著しいことで、交換レールの締結ができなくなることが考えられることから、PCマクラギ化を最優先で進めています。第1に急曲線の連続不良を解消、第2に全体の連続不良を解消、第3にレール交換箇所のマクラギ状態の良化、最後に全線における平均的なPC化を図り、全体のマクラギ不良率を15%程度まで低下させる計画としております。これにより、およそ3年後にはレール交換を開始できる見込みです。残るは道床ですが、全ての区間の道床を交換することは、費用の面でも現実的ではありませんし、不良マクラギがあると道床交換の際に破損してしまいます。また、土砂混入率の高い道床においてマクラギ交換だけを行うと殆どの交換箇所で噴泥が発生します。噴泥は軌道の変位を助長するため、軌道が悪化して修繕箇所が増大します。このような理由から、PCマクラギ両側部分の道床入替を同時に行うことを選択しました。これにより、PCマクラギ交換による噴泥の発生を防ぐとともに道床の砕石化を図ることができています。

261001【由利高原鉄道㈱】③ 線路噴泥状況写真

線路噴泥状況写真

■今後の設備更新

現在進めている軌道の更新計画を愚直に進めていくことが最も大事なことだと思っています。しかし、線路は軌道設備だけではなく、土木設備、信号設備もあります。当初予定になかった設備の緊急的な交換等が必ず発生してくると考えられます。その時、計画をどのように変更していくか、当初計画の取捨選択が必要になります。将来担当する者は、よりよい選択ができる知識やデータを読み取る力を持つ必要があります。

老朽化を放置してきたのには、経営層から担当者まで、携わる者が必要な知識や意識に不足があったものと思っています。人材の育成が今後の大きな課題となっておりますが、これから育成を確実に行い、よりよい維持管理ができる組織となるよう取り組んでいきたいと思っています。

■追記

令和3年度の運輸局の保安監査をきっかけとして、弊社が線路設備の老朽化に適切に対応してきていなかったことに気づかされました。内部での対応は難しいと判断し、外部から人材を得ることといたしました。そこでJRのOBで線路設備の知識や技能、情熱を持つ進藤氏にお願いし、工務所長さんとして採用させていただきました。保線業務についてこれまでのやり方を踏襲することなく、安全性の高い線路設備を構築することを目指し、取り組んでもらうこととしました。また、社員による線路設備に対する取り組みに問題があったことから、社員に対し、正しい知識や技術を与える指導者の役割も担ってもらうことといたしました。

今回、三セク鉄道だよりに由利高原鉄道が寄稿の機会を得ましたので、弊社での老朽化した設備への対応について、少しでも各社のお役に立てればと寄稿していただきました。

由利高原鉄道 代表取締役社長 萱場道夫