天竜浜名湖鉄道株式会社
代表取締役社長 松井宜正
1.はじめに
いつもお世話になっております。天竜浜名湖鉄道です。
天竜浜名湖鉄道、通称、天浜線(以下「天浜線」又は「当社」と記す。)は、静岡県の西部地域である東は掛川市の掛川駅から西は湖西市の新所原駅までの全長67.7kmを結んで昭和62年に開業しました。
現役で稼働する転車台や扇形車庫をはじめ、実に36もの施設が国の有形文化財に登録されており、昭和レトロ感の残る鉄道です。
その他、当社の概況等は、当社ホームページや第三セクター鉄道等協議会様の資料等でご覧いただけると思いますので、本寄稿では、当社の特徴的と思われる状況や取組み等を中心に記したいと思います。とは言っても、既にご存知あるいは既に他社でも実施している内容等も含まれると思いますので、その点について予めご容赦の上、お気軽にお読みいただければと思います。
2.軍事路線から平和路線へ
昭和15年に全線開通した天浜線の前身である旧国鉄二俣線は、海側を走る東海道線が戦争被害で使えなくなった場合の迂回路としての役割を果たすため山側に建設された、いわゆる軍事目的を持った路線でありました。そんな歴史を持つ天浜線ですが、そこから81年が経過した令和3年、とてもうれしい出来事がありました。
平和の祭典である「東京オリンピック2020」の聖火を輸送させていただいたことです。軍事路線として生まれた鉄道が、時を経て平和の象徴とも言える聖火を運ぶという役割を果たすことができたこと、また、私自身その歴史的な場に立ち会えたことが本当にうれしく、そして感慨深いものでありました。
聖火輸送
3.コロナ禍の中での追い風
私が社長に就任した令和2年の12月は、ちょうどコロナが猛威を振るっている時期でした。学校の休校や外出自粛気運等により、令和2年度の旅客収入は前年比で約75%まで落ち込み、以降徐々に回復してきているものの、令和5年度決算でも令和元年度比では約93%と、コロナ前までは戻りきれていない状況です。そんな厳しい状況の中、幸運なことに天浜線にいくつかの追い風が吹きました。
一つ目は「劇場版シンエヴァンゲリオン」、「ゆるキャンA」といったアニメのモデル地になったことや、テレビ東京の「AKB48最近聞いた?という番組の企画等に取り上げられたことです。これにより、それぞれ熱いファンの皆様が当社で作成した記念フリー切符を購入して、乗りに来てくださり、また、何と言っても関連グッズを販売したところ、オンラインショップ「てんはまや」の開設と相まって予想以上の売上げがありました。
ちなみに、もちろんこれだけが要因ではありませんが、令和5年度のグッズ販売収益は令和元年度比で約475%と大きく伸ばすことができました。
二つ目の追い風は、令和3年10月から「副駅名ネーミングライツスポンサー」の募集を開始したところ、地元企業等の皆様から多数ご応募いただいたことです。本年7月末現在、39駅中13駅(内、1駅は最終調整中)でスポンサー契約していただいており、ラッビング列車の広告料とともに、当社における安定的な収入と一つとなっています。なお、契約料は乗降客数等に応じて駅毎に設定しており、年間30万円から150万円となっています。
車両基地内(映画では第3村設定)に設置したロンギヌスの槍
AKB48 とのコラボ企画
フルーツパーク駅の副駅名が KATANA 駅に
4.全国花のまちづくりコンクールで大賞を受賞
浜松いわた信用金庫様、はままつフラワーパーク様、当社の3社で平成30年にスタートした「天浜線 人と時代をつなぐ 花のリレー・プロジェクト」が、昨年の第33回全国花のまちづくりコンクールにおいて、大賞(国土交通大臣賞)を受賞しました。現在、当プロジェクトによる植栽地は20ヶ所に、活動規模は地域のロータリークラブ、企業、学校などのアダプト団体138団体、約1万人に及んでおり、地域振興などを目的に花の植栽、管理活動を多くの皆様が連携して取り組んでいる点が評価され、応募総数878件の中から大賞に選ばれこと、本当にうれしく、また誇らしく思います。
同時に、この大賞受賞はアダプト活動に参加いただいている皆様の汗の結晶であると、心より感謝申し上げております。
なお、この大賞受賞を機に昨年11月に花のリレー・プロジェクト産官学金連携による観光プロジェクト研究会発足「産官学金(天浜線、浜松・浜名湖ツーリズムビューロー、浜松学院大学、浜松いわた信用金庫)連携による観光プロジェクト研究会」が発足しました。産官学金が連携して地域の魅力、資源を活用した新しい旅行商品を造成して地域の観光振興につなげようとするものです。現在、第2弾となる秋冬ツアーを企画中です。旅行商品が完成しましたら当社ホームページでもお知らせの上、参加受付けをする予定ですので、是非、お越しになってください。
アダプト活動風景
産官学金連携による観光プロジェクト研究会発足
5.車両更新
本年度から始まる当社の経営5ヶ年計画に車両更新が盛り込まれました。
1両製造するのに2年かかるため、本計画期間中に4両納車される予定です。高価な買い物をするわけですから、計画策定当初は、ご支援いただく県や沿線市町の了解が得られるか、正直とても不安でした。そこで、老化で故障が頻発している現行車両の長寿命化は限界にきており、今後、安全、確実な運行に支障をきたすおそれがあること、仮に無理に長寿命化を図った場合、修繕費や検査費用等を加えた車両に要する経費全体を長期スパンで計算すれば、更新した方が安価であることなどを資料作成の上、丁寧に説明させていただきました。
結果、本年1月に本計画をご承認いただき、ほっと胸をなでおろしたところです。
なお、車両更新だけでなく、資材費の高騰などで施設備費等も増加し、自治体のご負担額が膨らむ状況の中、令和3年度に実施した天浜線の存在による経済波及効果調査の結果(46億円/年)が、一つの具体的な支援する根拠の数字として自治体との交渉時に役立ったと感じております。
6.地域と共にこれからも
天浜線は国、関係自治体をはじめ、地域の企業や住民の皆様のご支援によって成り立っている鉄道です。だから、地域へ恩返ししなければなりません。私は常々社員に対し「次の3つのことを意識して、日々取り組んでいこう。」と伝えています。一つ目は言うまでもなく地域の足としての役制を安全、確実に果たすこと。二つ目は営業努力により可能な限り収益を確保すること。そして三つ目は地域の活性化、観光振興等に寄与することです。前述したように、車両更新が決まりました。車両更新が認められたということは、「今後少なくとも20年、30年は頑張って走り続けろ!」というエールだと受け止め、身が引き締まる思いです。
少子化の進展など厳しい経営環境の中、施設の老化対策、第3・4種踏切の解消など対応しなければならない課題は山積みですが、天浜線は地域にとって必要不可な社会資本であるよう、これからも地域と共に走り続けたいと思います。