【三セク協だより第59号掲載】貨物輸送の概要について

鹿島臨海鉄道株式会社
貨物事業部長 阿 部 航 仁

【1.事業の沿革】

(1)はじめに

 茨城県東部を縦断する鹿島臨海鉄道は、鹿島臨海工業地帯で生産される原材料や製品の輸送を目的として、日本国有鉄道、茨城県並びに鹿島臨海工業地帯進出企業の出資により1969年4月に設立れ、1970年11月に国鉄北鹿島駅(現JR鹿島線鹿島サッカースタジアム駅)から、神栖市の臨海工業地帯内にある奥野谷浜駅までの19.2㎞を結ぶ貨物専用線「鹿島臨港線」として営業を開始しました。
 その後、国鉄鹿島線の第Ⅱ期工事として着工、建設された北鹿島駅~水戸駅間53.0㎞区間を、1985年3月に「大洗鹿島線」として旅客営業を開始しました。1991年2月に鉄道資産を国鉄清算事業団から譲り受けました。JR線への乗り入れとなる北鹿島駅~鹿島神宮駅間3・2㎞を合せた運転区間は56.2㎞に及びます。
 本年は鹿島臨港線は開業54周年、大洗鹿島線は39周年を迎えます。前回令和2年5月号に掲載頂いた投稿記事では、大洗鹿島線における旅客輸送の動きが対象でしたので、今回は鹿島臨港線の貨物輸送に関する概況と最近の動きをお伝えします。


(2)貨物輸送の歴史
 開業当初より、コンビナート群で生産される石油製品、鉄鋼、塩化ビニル、肥料、化学工業品を主な取扱品目としており、車扱貨車からコンテナ輸送に転換し積載貨物の変遷を経て現在に至ります。初期には合わせて5つの駅(居切、神栖、神の池、知手、奥野谷浜)が存在し、主要操車場である神栖駅は車扱貨車450両/日の操車能力を持っていました。
 1978年3月から1983年8月の期間には、国の要請により新東京国際空港(千葉県)開港で使用する航空燃料の暫定輸送が行われました(実績6,135千トン)。これに伴い、前後して同時期に輸送ルートの地元対策を担って、知手駅~奥野谷浜駅間に鹿島港南駅を設置し、鹿島神宮駅との区間で3往復/日の旅客列車が運行されていました。

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(3) 輸送量と取扱品目
 直近5年間の輸送量推移を見ると、増減はあるものの大きな変動はなく安定しています。発着規模では発送が到着のほぼ2倍の数量に達し、継続的な空コンテナの回送が必要となりますが、繁忙期等には不足する事態も生じるため、不均衡の是正を図るべく到着貨物の取り込みが課題となっています。
 2022年度の品目別内訳では、発送は化学工業品が最も多く、化学薬品、その他工業品と合わせた上位3品目で全体の3/4を占めています。一方、到着は化学薬品が最も多く、返回送コンテナ、化学工業品も2割弱を占めています。食料工業品を合せた上位4品目で全体の7割を超えます。
 化学工業品には合成樹脂、ゴム、樹脂製品が含まれ、臨海工業地帯で生産、使用される原料素材や製品輸送を担っています。化学薬品には可燃性、毒性等の性質を持つ危険品もあり、鉄道の安全性が評価され専用仕様のタンクコンテナ等によって輸送されます。
 食料工業品には醤油、食用油、糖類が含まれ、臨海部に設置されたサイロからの飼料も発着ともにご利用があります。その他に含まれる廃棄物については、産業廃棄物の収集運搬許可を取得しており、専用仕様のコンテナに積載し広域処理に向けた動きに対応しています。

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【2.貨物輸送の現状】

(1)列車運行
 貨物列車は、首都圏の取扱拠点である東京貨物ターミナル駅(東京都)と越谷貨物ターミナル駅(埼玉県)との間に1日2往復(日曜日運休:20両・14両編成)設定され、両駅を中継して全国のネットワークとつながっています。
 神栖駅から工場専用線扱いとなる奥野谷浜駅間は、1日1往復(休日運休)運行しています。なお1989年11月から1996年3月までは、大洗鹿島線でも水戸駅でJR常磐線と接続するコンテナ・車扱列車を運行していました。JR鹿島線は電化線区ですが臨港線は非電化のため、接続する鹿島サッカースタジアム駅で電気機関車(EF210形式)とディーゼル機関車(KRD形式)の付替えを行います。


(2)神栖駅の役割
 神栖駅は構内面積69千㎡、線路本数16本(番線数14)を有する臨港線の中心拠点です。荷役エリアは2箇所に分かれ、北側ホームでは20ft・31ftの大型コンテナ、南側ホームでは12ftの汎用コンテナを取扱います。入換作業で貨車の振り分けと組成を行います。
 開業当初は12ft限定でしたが、1993年11月に20ftの取扱を開始し、タンクコンテナによる合成樹脂、化学薬品や無蓋コンテナによる産業廃棄物輸送が拡大しました。その後、24トン積載のISOタンクコンテナに対応した荷役機械であるトップリフターが導入されましたが、その更新を機に2022年11月から新たに31ftコンテナの取扱を開始しました。
 これにより従来のトラックから出荷ロットを変更せずに鉄道輸送へ転換でき、ご利用頂ける選択肢が拡大しました。実際に合成樹脂製品の往復運用でのラウンド輸送が2023年2月より開始しているほか、食品など複数案件で作業面や運用上の課題を検証する試験輸送に取り組んでいます。

(3)複合コンテナ施設
 構内には1992年9月に複合コンテナ施設(貸付倉庫)が開設、現在は計5棟が稼動し物流事業者に貸付を行っています。各倉庫では、大型トラックで持込んだ原材料や製品を保管するとともに、12ftコンテナにバニング(積込み)して各地の仕向先に発送しています。入出荷を行う軒先は荷役ホームと直結しており、横持ちせずに直接貨車に積卸しできるため効率的な輸送が図れます。

(4)積替えサービスの利点 
 今後はドライバー不足や労働時間規制強化に伴う「2024年問題」を受けて、長距離トラックの安定的な確保は難しくなると見られています。一方12ftコンテナでの集荷配達には専用の緊締装置を備えた車両が必要で、スケジュールの都合が合わない場合もあります。そこでJR貨物では一般のトラックで持込み、コンテナに積替えて発送、また到着後コンテナから取卸してトラックで配送する「積替えステーション」の設置を進めています。神栖駅においても、構内スペースを活用した積替えサービスを展開しており、加工食品でご利用事例があります。

(5)検修庫
 駅構内には検修庫があり気動車、機関車の全般検査をはじめとした点検整備のほか機器故障時の調査
修繕に対応しています。また車体のラッピング、塗装も手掛けており、大洗鹿島線から臨港線を経由して回送されます。


(6)広報活動
 鉄道コンテナ輸送の認知度向上を図り、モーダルシフトを推進する取り組みとして、周辺立地企業向けに「神栖駅見学会」を開催し、鉄道輸送の仕組み、メリットの説明や構内視察、コンテナ荷役作業の紹介を通じてご理解や関心を深めて頂く機会としています。またロケ地としてTV番組やPV撮影なども手掛け、一層のPRに向けて誘致を進めています。

【3.旅客列車の臨港線乗り入れ】


 鹿島臨港線(鹿島サッカースタジアム駅~神栖駅~奥野谷浜駅)は、大洗鹿島線と異なり貨物専用線となっています。このため、普段は見られない臨港線への旅客列車の乗入れという希少価値を前面に打ち出したイベントを企画、展開しています。このうち、最近開催された事例を紹介します。

(1)「茨城DC特別企画 1日限りの復活運転 大洗エメラルド号で行く鹿島臨港線の旅」
 大洗エメラルド号は、大洗鹿島線開業初期に大宮駅(埼玉県)~大洗駅(茨城県)間を東北本線、水戸線経由のルートで運行された夏季の行楽イベント列車でした。茨城DC(2023年10~12月開催)の特別企画として、JR東日本のご協力を受けてDE10形機関車と12系客車を使用し、35年振りに当時と同じ型式車両による編成を再現しました。大洗駅~神栖駅間を日中時間帯に運行、神栖駅では番線に各型式車両を集結した撮影会、汽笛吹鳴体験、物品販売などで参加者に楽しんで頂きました。


(2)「鹿島臨海工業地帯を走る工場夜景ナイトツアー」
 昨今の工場夜景ブームに合わせ、同じく茨城DCの一環として水戸駅~奥野谷浜駅間を夜間帯に6000形気動車を使用して運行されました。特に神栖駅~奥野谷浜駅間(9.1㎞)では、一時期限定的に旅客扱いのあった(旧)鹿島港南駅(8.5㎞)から先の専用線区間は、開業以来初めて旅客列車が進入するという歴史的観点から注目を集めました。参加者の皆様には、クリスマスイブに車窓に広がる臨海工業地帯の夜景を鑑賞して頂きました。
 お蔭様でツアー申込状況が好調であったため、臨港線への乗入れツアーは継続して企画、開催されています。


(3)「サッカー観戦貸切列車」
メニューを広げる新たな試みとして、臨海工業地帯の関係者のご家族を対象に、神栖駅~鹿島サッカースタジアム駅間(10.1㎞)でJリーグ観戦の貸切列車を2023年8月に運行しました。
 このほか、2018年5月より学校や同好会などのご要望(日時、区間、両数)に合わせた貸切団体列車も設定、運行しております。ご興味、ご関心をお持ちの方は、お気軽に当社にお問い合わせ頂けますと幸いです。