道南いさりび鉄道株式会社
経営企画部 企画営業課 担当課長
春 井 満 広
はじめに
2016(平成28)年3月26日の北海道新幹線開業時に江差線の一部がJR北海道から分離され、誕生したのが道南いさりび鉄道線です。五稜郭駅~木古内駅間の37.8㎞、旅客駅12駅(他信号場1)を運営しています。五稜郭駅は、JR北海道との共同管理駅で有人駅ですが、当社の駅は全て無人駅です。
通勤や通学などの沿線地域の生活路線としての役割と、貨物列車が運行し北海道と本州を結ぶ物流ルートとして重要な役割を担っています。
ご利用いただいてるお客さまは、定期利用が60%、定期外利用が40%ほどになります。コロナ禍の影響、また沿線の人口減少や少子化の影響により利用人員はコロナ禍前と比較し8割強の回復にとどまっています。

「いさ鉄」の魅力
「いさ鉄」は、車窓から眺める風景がおススメです。上磯~釜谷の区間は津軽海峡に面しており、海に浮かぶ函館山や、夜にはイカ漁の時期になると漁り火や夜景を見ることができ、夏の青い海と新緑の景色、冬の白一色の美しい自然・・・、季節ごとに違う顔を見せてくれます。さらに沿線には観光スポットが多数ありますから、「ローカル列車のぶらり旅」「1日乗車券で沿線制覇」「観光列車」など様々な楽しみ方をしていただけます。
また、「いさ鉄」の車両はJR北海道から譲り受けたディーゼル気動車キハ40形を使用しています。すでに40年以上走り続けている車両ですが、道南の四季をテーマにカラフルなデザインに塗り直しをし、観光列車としても利用できる「ながまれ号」に加えて、鉄道ファンに根強い人気のある国鉄色の塗装車両があり全8両、様々な色彩の車両を運行しています。当社ホームページお知らせの「道南いさりび鉄道線の車両運用予定について」で車両の運用をお知らせしていますので、車両を選んで乗車する旅も一つの楽しみとしてご利用いただいています。

車両のカラーリングイラスト

ながまれ号と函館山
「いさ鉄」沿線のみどころ
車窓から眺めていただく景色もおススメですが、列車を降りて駅から街を散策していただくことも地域の鉄道として大きな役割になります。当社線沿線の見どころを少しご紹介します。
清川口駅近郊には、松前藩戸切地陣屋跡に向かう道路沿いに地域の方によって植樹された桜が圧巻の光景を見せてくれます(清川千本桜)。このほか、松前藩戸切地陣屋跡桜トンネル、大野川沿い桜並木、法亀寺(ほうきじ)の4ヵ所を巡る「北斗桜回廊」が例年4月末に開催されています。清川口駅もぜひご覧いただきたい駅でして、地元自治体管理の駅舎ですが改修を行う際に「ながまれ号」と同じデザインに塗り替えられています。
茂辺地駅から徒歩5分のところには北斗星広場があり、寝台列車「北斗星」の客車2両を保存・展示しています。4月~11月の期間は簡易宿泊施設として営業をしており車内で宿泊も可能となっています。渡島当別駅は、トラピスト修道院の最寄り駅であり、副駅名を「トラピスト修道院入り口」としています。トラピスト修道院は1896年に創設された日本最初のカトリック男性修道院です。トラピストバターやクッキーなどは観光みやげ品として人気です。釜谷駅〜泉沢駅間のサラキ岬があり、その沖合には幕末に活躍した咸臨丸が眠ると言われ、モニュメントの周りには、数万球のチューリップで彩られ、お客さまの目を楽しませています。
木古内駅前には、立地としては珍しく駅前に「道の駅みそぎの郷(さと)きこない」があります。「北海道発祥の地」である道南西部9町(知内町、福島町、松前町、上ノ国町、江差町、厚沢部町、乙部町、奥尻町、木古内町)の旬な魅力を発信しています。木古内では例年1月に二百年近く続く伝統神事「寒中みそぎ祭り」が行われます。

清川口駅
「いさ鉄」の観光列車
当社線を知っていただくうえでご紹介したいのが、「観光列車」の取り組みです。「地域情報発信列車 ながまれ号」としてキハ40形2両を観光列車としても使用できる車両に改造し開業時から運行しています。「ながまれ」とは、当地方の古い方言で「ゆっくりして」「のんびりして」の意味です。駅ホームでの立ち売り販売やホームでのバーベキューなど様々な催し物を用意し、「地域が作り上げる観光列車」を目指して沿線地域の皆さまや旅行会社の協力をいただき運行を続け、多くのお客さまにご利用いただいております。
令和6年度には、観光庁地域観光新発見事業を活用し、地域の「食」と「お酒」をテーマにした「いさ鉄Bistro ながまれ号」を9月に運行し、沿線の皆さまに関わっていただき特別メニューの「四段お重」や日本酒・ワインを楽しんでいただく列車を実施しました。
そのほかにも、「寒い時期に温まれる列車ができないか」との思いで地域応援隊のアイデアから誕生し現在も運行している「おでん列車」や、沿線のレストランや酒屋さんから「地元のワインを楽しむ企画を行いたい」と思いで企画持込みされ実現した「ワイン列車」を運行しています。
また、イベント列車では車内の明るさを暗くして車窓からの夜景を楽しんでいただく「夜景列車」も大人気です。
このように、当社の観光列車は地元の皆さま方のアイデアや思いを活かし、様々な取り組みへと繋がっており、地域が一体となるための素材として「観光列車を活用すること」が地域の皆さまに認識されてきたと感じております。
「いさ鉄」の地域との取り組み
観光列車の取り組みを紹介しましたが、定期列車の利用に繋げるために次のような取り組みを行っています。
・沿線地域の町内会や老人クラブを通してのPR活動
沿線の町内会や老人クラブの総会などの会合に参加し、当社の魅力や楽しみ方、さらにはその時々のおススメ事項を紹介することで利用を促しています。
また、関連する団体やサークルでの利用や高齢者大学などで当社を知っていいただく講義などの依頼を受けることもあり、地域の鉄道として地域の皆さまとの関りを作るきっかけにも繋がっています。
・沿線の学校や学生による駅・列車の活用
地域の未来を担う子供たちの協力や関係作りも地域と連携するうえで重要な要素の一つです。特に七重浜駅近くにある函館水産高校は積極的に関わっていただいています。学校の活動を紹介する学校新聞を七重浜駅に掲示、授業で製作した缶詰など実習品を駅や列車内で販売、観光列車の車内での生徒自身が学校取組や地域PRを実施してきました。
そして、この2月からは水産高校らしい取組として、七重浜駅から地域を盛り上げたい、駅利用者に癒しを与えたいなどの思いから、水槽を設置。学校や地域に関連する生物やその標本を展示することとなりました。最初の展示は同校の生徒がふ化させた金魚7匹がお客さまの目を楽しませています。

函館水産高校水槽
・沿線自治体の交通・観光担当部署との連携
宣伝告知では、沿線自治体や団体と連携し、取り組みを進めています。
自社でもイベント出店や商談会へ参加をしますが、その数は限られており、沿線自治体や団体が出展する時には当社の情報発信を委ねて、露出を多くするようにしています。
また、先に説明した観光庁地域観光新発見事業の中ではインバウンド向けの発信にも取り組み、当社として初めて台湾でのイベントや旅行会社との商談会にも参加しPRを行ったところです。
今後も、沿線自治体と連携したPR活動をし、沿線地域と一体になった誘客活動を行っていきたいと考えます。


台湾イベント
地域とともに
当社は令和8年3月26日に10周年を迎えます。厳しい経営環境の中、まだまだ多くの課題を抱えておりますが、これからも地域の鉄道としての役割をしっかりと果たしていく必要があると考えています。
先に地域と連携した取り組みの一例を紹介しましたが、沿線の皆さまと共に取り組みをすることが「地域の魅力」を伝え、「地域を盛り上げること」に繋がります。沿線の企業と連携した商品開発など、鉄道に限らず、関連する事業で繋がるケースも増えてきました。
沿線地域の皆さまが「いさ鉄」を自分たちの鉄道という意識が高まってきており、浸透してきていることに気づかされます。移動のための交通手段のみではなく、新たな魅力を発揮できる地域の鉄道として取り組んでいく所存です。
お客さまを安全に安心して、また便利で快適にご利用いただくための取り組みはもちろん、こうした皆さまとの繋がりを大切にし、またご協力いただけることに感謝の気持ちを忘れず恩返しができうるよう、地域を走り、地域を結ぶ鉄道として沿線の皆さまと、そして三セクをはじめとする鉄道事業者の皆さまとともに社員一同歩んでまいります。
ぜひ北海道へお越しの際は、当社の観光列車のほか、1日乗り放題の「いさりび1日きっぷ」をご活用いただき皆さまのご利用をお待ちしております。


五稜乃蔵いさ鉄ラベル五稜