阿武隈急行株式会社
代表取締役社長 冨田政則
1.阿武隈急行の概要
阿武隈急行は、福島県と宮城県を結ぶ路線として、昭和63年7月1日に福島駅~槻木駅間を全線電化して開業した第3セクターの鉄道会社です。前身は、宮城県方の槻木駅~丸森駅を運行していた国鉄の旧丸森線です。その路線を福島まで延伸させて、国鉄から引き継いで経営をスタートさせました。営業キロは54.9kmで、福島県側26.8km、宮城県側28.1kmとなっており、県境部分は阿武隈川沿いの山間部を走行しています。運行本数は、上り・下りそれぞれ38本で、仙台までの直通を1日2本運行しています。
ご利用いただいているお客様は福島県側が6割、宮城県側が4割となっており、全体の65%が通勤・通学でのご利用です。令和に入って、自然災害やコロナ禍により大きな影響を受け、輸送人員は一時、ピーク時の4割にまで減少しました。令和5年度は回復傾向が見られたものの、6割程度の回復にとどまっています。
2.近年の状況
令和になってのこの5年間、阿武隈急行は大きな波に見舞われています。
◇一つ目の波
一つ目の波は、台風被害、地震被害そしてコロナ禍による波です。
令和元年10月に台風の被害を受け、土砂災害による線路、駅舎の流失などにより、宮城県・福島県の県境部分が約15kmにわたって不通となり、復旧まで1年の時間を要しました。
更に令和3年2月及び令和4年3月に発生した福島県沖地震被害により、軌道や橋脚、駅舎に大きな被害が発生しました。特に、令和4年3月の地震では、福島駅と保原駅間の運転再開までに3カ月以上を要し、その影響は復旧後も回復せず、利用者の減少を招きました。まさに3年連続での被災となったわけです。
さらに、これらと並行して、コロナ禍の影響を受けるなど、ダブルパンチにより、利用者の大幅な減少に直面することになりました。
利用者数はピークであった平成7年度には325万人でしたが、こうした災害のなかった平成30年度には247万人となり、23年間で78万人が減少しました。令和に入り災害とコロナ禍の影響を受け、令和4年度には129万人まで大幅に減少しました。こうした災害等の直接の影響がなくなった令和5年度は190万人まで回復したものの、この5年間でそれまでの23年間に匹敵する減少をもたらしたことになりました。
また、全国各地でインバウンドに伴うオーバーツーリズムが叫ばれている中、阿武隈急行ではインバウンド需要の恩恵を全くうけることがない状態が続いていることも課題となっています。
◇二つ目の波
二つ目の波は、施設・設備の老化の波です。
これは全国の3セク鉄道共通の課題であると思います。阿武隈急行も、他社さんと同様に、かつての国鉄時代の路線を継承して3セク化しており、「槻木駅~丸森駅」は国鉄時代の丸森線を継承している路線です。これまで、線路等を含め施設設備のメンテナンスを講じてはいるものの、55年以上が経過しており、メンテナンスの費用も増加・高止まりしている状況です。利用者が減少している中で、修繕費の高騰は経営を圧迫している要因の一つとなっています。そして、これらの経費を如何に継続的に着実に確保するか苦慮している状況です。
◇三つ目の波
三つ目の波は、鉄道存統の危機に直面しています。こうした利用者減少、施設設備の老朽化は経営状況の悪化を招き、それが株主である沿線自治体の経営支援に対する足並みの乱れを生じさせてきています。公共交通機関の必要性は理解しているものの、今後の人口減少社会において、コストのかかる鉄道を将来とも維持できるのか、よりよい代替手段を検討すべきではないのかといった考えを示す自治体も出てきています。まさに、こうした問題は、阿武隈急行に限らず、全国の地方鉄道共通の課題でもあります。
こうしたテーマを議論していく際には、地域住民を巻き込んでの議論が望まれます。ただ、単なるコスト面からの議論に終始し、鉄道の持つ価値に目を向けず結論付けてしまうことになれば、将来に禍根を残すことになるのではないでしょうか。自分たちの町を通っている鉄道が現在どのような状況に置かれていて、どのような課題を抱え、将来の見通しがどうなのかといったことに対して決して関心が高いとは言えないのがこれまでの現状でした。むしろ、普段利用することのない人たちにとっては、そもそも興味関心の外にある存在です。そうした人たちを含めて、鉄道の持つ意義をどのように捉え、認識するのか幅広い観点での意見集約を期待しているところです。
3.「在り方検討会」
人口減少、度重なる自然災害、コロナ禍の影響による利用者減少、施設設備の老化に伴う経費の増加等により厳しい状況にある阿武隈急行線について、赤字拡大を抑制するための抜本的な改善方策等について議論するために令和5年3月に「阿武隈急行線在り方検討会」が設置されました。検討会では、学識経験者、交通事業者、自治体、経営改善実績のある地方鉄道経営経験者などを委員として8項目に対して結論を得ることを目的としています。
阿武隈急行線在り方検討会【検討事項】
⓪原因解明
①増収策(利用促進策等)
②経営体制の変更(上下分離方式等)
③民間人の常勤役員起
④輸送モードの合理化(バス転換等)
⑤運行ダイヤの合理化
⑥車両更新数
⑦経常経費の妥当性
⑧その他経営改善に資する取組
◆「令和7年3月までの約2年間で順次結論を取りまとめ、提案事項は、経営健全化計画等へ反映され、阿武隈急行株式会社が履行することを沿線自治体の支援継続の要件とする」とされています。
これまで6回の検討会が開催されています。
最大の課題でもある「輸送モードの合理化」については、福島県では鉄路維持の方針が明確に示されていますが、宮城県側においては未だ方針が決定されていない状況です。宮城県側では、現在、県が中心となって、将来の輸送モードについて、①鉄路維持②気動車③BRT (+バス)④バスの4つに区分し、それぞれ運行主体別に様々な観点から論点盤理を行い、この秋の方針決定に向けて宮城県側の意見を集約していく予定です。阿武隈急行にとっては、正に正念場を迎えることになります。
この結論いかんでは、まさに今後の阿武隈急行のあり方を抜本的に見直さざるを得ない状況に直面することになります。
4.あぶきゅう支援団体の登場
幸いなことに、こうした議論の流れの中で、今年になって、宮城県内の角田市、丸森町、柴田町の沿線自治体に「あぶきゅう応援団」「あぶQ・乗りつづけ隊」といった阿武隈急行を応援しようとする団体が立ち上がりました。
これらの団体は、阿武隈急行の現状理解、住民意見の集約、フォーラム、駅の環境整備、利用者増に結びつけるイベント開催など、実に様々な活動を展開していただいています。そうした中でも、今年の3月には、「あぶきゅう応援フェスタ」が開催され、沢山の皆さんが集まり、阿武急存続の応援をしていただきました。
こうした応援は、社員の励みにもなりますし、会社が地域に必要とされているのだということを実感させてくれることでもありました。
また、沿線の大学とも連携協定を締結したことから、今後、大学と共同でのイベント開催や学生の学習フィールドとしての鉄道の活用を展開していこうと計画しています。
さらに、会社独自のイベント開催、若手社員有志による組織横断型チームを立ち上げ、社員の目線で会社として必要な取り組みを推進するとともに、チーム発案よるイベント開催にも取り組んでいます。
5.おわりに
阿武隈急行は、今年で全線開通37年目に入りました。この間、幾多の災害や困難をも乗り越え、地域の皆様の通勤・通学や日常生活の足としてご利用していただきました。しかしながら、大幅に拡大した赤字と地域における人口減少の波により、これからも阿武隈急行の経営状況の厳しさは続くことが見込まれます。こうした中にあって、阿武隈急行では社員が一丸となって、このような状況を少しでも改善する努力を継続していくとともに、安全・安心・安定輸送に取り組み、地域にとって分かすことのできない鉄道として、そして単なる交通手段以上のあらたな魅力を発揮する鉄道として地域と共に歩んでいきたいと考えています。