【三セク協だより第59号掲載】『ファンと共に新しい年を 秋田内陸線35周年を迎えて』

秋田内陸縦貫鉄道株式会社 総務企画課長 長澤 学

1.はじめに

 皆様、お久しぶりです。秋田内陸縦貫鉄道です。令和2年5月号に掲載をして頂いてから約4年ぶりの投稿となります。前回の投稿では秋田内陸線の来歴についてご案内をさせていただきましたので、今回は最近の出来事についてすこしお話をさせていただきたいと思います。お話の前に、4年ぶりですのでちょっとおさらいを。秋田内陸縦貫鉄道は秋田県の中央部からちょっと東側を南北に走る鉄道で、北は北秋田市の鷹巣駅から、南は仙北市の角館駅までの全長94.2km、29駅を結ぶ鉄道です。

 本社は北秋田市の阿仁合にあり、保有旅客車両は11両(すべて気動車)、一日の運行は上り12本、下り15本が走っています。ご利用のお客様の特徴は阿仁合から北側と南側でそれぞれ特徴があり、北側は高校通学用途として定期利用の方が多く、南は新幹線発着駅のJR角館駅からの国内旅行客、空港からバスを利用したインバウンド旅行客などの定期外利用が多くなっています。沿線地域にはそれぞれ特色の伝統文化があり、北から伊勢堂岱遺跡を中心とした縄文文化、阿仁の鉱山文化・マタギ文化、西木の里山文化、角館の武家文化を秋田内陸線の旅でお楽しみいただいております。

2.被災と再開

 この4年の間、平穏無事で営業が出来ていればよかったのですが、残念ながらそうはいかず、令和4年8月12日に豪雨による災害を受けました。雨は阿仁合より北側部分に集中し、計10か所で法面崩落や土砂流入、路盤流出などが発生し、鷹巣駅-阿仁合駅間は運休となってしまいました。

 幸い始発前に異常が検知されたため人的被害はなく、また、被災から3日後には代行バスの運行も開始でき地元利用のお客さまへのご迷惑は、被害に比して最小限に抑えることが出来たと思っております。その後は自治体様や工事業者様などの手厚い支援・ご協力を頂けたことで約4か月後の令和4年12月12日に全線再開をすることができ、沿線をはじめ各地から寄せられた多くの再開を祝う声や励ましから、秋田内陸線の存在を社員として改めて認識させられました。この間、応援・ご支援を送って頂きました皆様には改めて御礼を申し上げます。ありがとうございました。

 被災した地域を含む、秋田内陸線の前身の国鉄阿仁合線は、昭和38(1963)年に比立内駅の開業により、鷹巣~比立内間で全線が開通し、令和5年に全線開通60周年・比立内駅開業60周年を迎えました。ご愛顧をいただいているお客様への日頃の感謝の気持ちを込めて60周年記念イベントを開催し、皆様と60年分の思い出を共有してお祝いをいたしました。60周年記念イベントには地域住民の皆様に加えて地域協力団体の皆様がご参加下さり、伝統芸能の披露やミニライブ、出店の出店など大変なにぎわいで地域に元気をお届けすることができました。

3.リピーターからファンへ

 さて、コロナを経て皆様の多くもお客さまとの繋がりの重要性を再認識されたことと思います。どんな時でも応援して支えてくれる、時には厳しく激励してくれる、そんなファンがいてくれれば会社としてこれほど嬉しく励みになることはありません。近年では「ファン」を大切にし、企業活動の「ベース(支持母体、土台)」として、中長期的に売り上げや価値の向上を図る「ファンベース」という考え方も定着しつつあるように感じています。その中で内陸線では北秋田市様のご協力のもと、令和5年度国事業「地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業」を活用させていただき、南紀白浜エアポートの岡田信一郎氏を秋田内陸線誘客拡大アドバイザーとして委嘱しました。岡田アドバイザーの持つ豊富で多彩な知見・ノウハウに基づく効果的なアドバイスを得ながら、内陸線を含む沿線地域が抱える誘客課題の解決について協議し、地域への来訪者および内陸線利用者のファン拡大を図る具体的かつ実践的な取り組みを行ってまいりました。そのファン拡大の取り組みの一つとして実施したのが『内陸線応援社員』という企画です。この企画は岡田アドバイザーの「駅にタイムカードを置いて、ファンに自由に出勤してもらったどうか?」という提案から始まったものです。『内陸線応援社員』は内陸線の広報を担っていただく仮想社員としてご登録(有料)いただき、その際にお渡しするタイムカードで「出勤」して、内陸線の時間を自由に過ごしてもらい、車窓風景や列車や駅ホーム、タイムカード打刻の場面、購入した商品やサービスなどのSNS発信や拡散を仮想社員業務として楽しんでもらう企画です。また、令和6年度にはファンミーティング「応援社員総会」の開催を予定しており、その際には応援社員の皆さんからのご意見・ご要望を伺い、応援社員同士の横の繋がりが出来る場を提供したいと考えています。

 ちなみに、タイムカードは自由に記名いただき、駅のタイムカードラックへ置いて帰ることも出来ますので、他の応援社員や一般のお客様に自由にご覧いただき、こちらも話題として楽しんで頂いています。

 ファン拡大の別方向の取り組みとして、健康に資するイベントも開催をしてきました。ウォークイベントやヨガイベントです。ウォークイベントでは内陸線駅から内陸線駅へとウォーキングを楽しんで頂き、ヨガイベントではプロの講師を招き、内陸線駅近くの会場で初心者でも楽しめるヨガ体験を楽しんで頂きました。どちらも老若男女問わず多くのご参加をいただき健康イベントへの関心の高さを実感いたしました。

 また、ウォークイベント「内陸線スマイルウォーク」の中のひとつでは、縄文小ヶ田駅-大館能代空港間のウォークイベントに加え、大館能代空港事務局と連携し、空港制限区域内の見学イベントといった鉄道・空港の連携によりお互いの魅力発信によりファン獲得を図りました。

 空港との連携については、全日本空輸株式会社秋田支店様のご協力によりANA客室乗務員の案内とともにお酒を楽しむイベント列車を令和5年度は3本運行をして高評価を頂きました。閑話休題。

4.新卒採用

 話は変わりますが、令和5年度の新規採用の現場では高校新卒採用をいたしました。運転士志望の男性です。ご存じのとおり動力車操縦者試験20歳の年齢制限がある為、駅業務を経験後は車掌として業務に励んでもらっておりますが、その中で18歳の伸びやかな発想で同窓の友人と共に「秋田内陸線×いすみ鉄道」新卒社員コラボ相互PR広告を企画し実現しました。このPR広告はお互いの列車の車両の中吊りとして掲出し、ご覧いただいた皆様が両路線・地域に興味をもってもらい、認知度向上につなげることを目的としたものです。

 鉄道同士の横の連携がこうした形で現れるというのも鉄道という大きなくくりでの当事者として、そして鉄道ファンとしての活動と言えるのかもしれません。

5.おわりに

 秋田内陸縦貫鉄道は令和6年4月1日に全線開業35周年を迎えます。これからも地域の交通インフラとして、秋田の観光目的としてご利用のお客様に安心・安全・快適を提供し続けて参ります。また、関係人口の創出やファン拡大はもちろんの事、地域になくてはならない鉄道として沿線の魅力発信を継続的に取り組み、鉄道としてできることの可能性を拡げ、鉄道の公共性を地域課題解決や地域との共存の中で果たしていきたいと思っています。