【三セク協だより第58号掲載】笑顔をつなぐずっと 〜物語が生まれる三陸鉄道〜

1 三陸鉄道のあらまし

 岩手県の沿岸を走る三陸鉄道(愛称:三鉄(さんてつ))は、1984年4月1日に日本で初めての第三セクター鉄道として開業し、現在39年目。来年、開業40周年を迎えようとしています。

 三陸鉄道の社員数は2023年4月1日現在で135名。当社の二つの使命、すなわち通勤、通学、通院、お買い物など沿線地域の皆さんの生活の足を確保するという役割と地域の活性化や交流人口の拡大などによる三陸地域の振興に貢献するという役割を果たすべく様々な業務を行っています。

 2011年3月11日の東日本大震災津波や、2019年10月の台風19号により甚大な被害を受けましたが、多くの皆様の御支援により復旧・復興を果たすことができました。

 また、2019年3月にJR東日本の山田線のうち、宮古・釜石間の復旧移管を受け、盛駅と久慈駅との間、全長163 km、全国の第三セクター鉄道の中で最も長い路線を有する鉄道事業者として新たなスタートを切りました。

大沢橋りょうを渡る列車

2 三陸地域で進む人口減少

 三陸鉄道が直面する課題として、まず挙げられるのが、沿線の人口減少に伴う乗車人員の減少、特に通勤定期や通学定期で乗車いただくお客さまの減少です。

 沿線地域の人口は、1984年の24万7,000人から2014年の18万6,000人と、年間で約25パーセント減少。高校生の通学定期は三陸鉄道の収入の柱となっていますが、沿線の高等学校の生徒数も震災前の2010年度が7,924人だったのが、10年後の2020年度は4,839人と、約4割減っています。こうしたことから、三陸鉄道の乗車人員も1984年度(開業年度)の268万人から2022年度の61万人へと4分の1以下に減っています。

 また、人口減少に加え、燃料費も2年前に比べて約2倍となっていて、弊社の経営を圧迫しています。

 こうした厳しい経営状況にありますが、三陸鉄道は多くの人たちに支えられながら、地域の足の確保や交流人口などによる地域振興に向けて、取り組んでいます。

3 震災学習列車の運行

 岩手県の沿岸地域では水産業や水産加工業と共に観光産業が地域産業の大きな柱の一つとなっており、県都盛岡市がニューヨーク・タイムズの「2023年に行くべき52カ所」の一つに選ばれ、台湾・花巻定期航空便が再開、数多くのクルーズ客船が寄港するなど観光産業がコロナによる低迷から脱する好機が到来しています。

 三陸鉄道では、年間を通じて様々な企画列車を運行していますが、そのうち、「震災学習列車」は、復興が進む被災地を走る列車の中で、震災を経験した三鉄社員や地元ガイドから話を聞くことができる、ということで、昨年度は学校や企業の皆様など約250団体、約12,000人に御利用いただきました。

 写真の社員は小学校6年生の時に被災し、避難所や仮設住宅での生活を経験しました。震災学習列車では、そうした自分自身の震災体験や思いも交えてガイドをしています。

 震災の記憶や教訓を伝えていくことは、これからの防災の一助になるものと考えていますし、鉄道の旅の楽しさも感じてもらいたいと考えています。

 三陸鉄道では、沿線の震災伝承施設や震災語り部団体はもちろん「3・11伝承ロード推進機構」や7月に発足した「東北復興ツーリズム推進ネットワーク」などと連携し、震災学習を観光コンテンツとして磨き上げることによって、より多くの人に御利用いただきたいと考えています。

震災学習列車

4 様々な情報発信 ~多くの御支援をいただいて~

 観光客に訪れてもらうためには情報発信が重要であり、自社のWEBページやSNSで随時、発信をしていますし、三陸鉄道はテレビのニュースや旅番組などで紹介いただく機会も比較的多いと感じています。

 去る5月29日には叡王戦第4局で宮古市を訪れていた藤井叡王と小山四段に三陸鉄道を訪問していただきました。お二人が列車の運転や一日駅長を体験する様子は新聞・テレビ・WEBで大きく取り上げていただきましたので、御覧になった方もいるかもしれません。

藤井叡王と小山四段の一日駅長

 KDDI㈱からは3月から「au XR Doorで巡る三陸鉄道の旅」を提供いただいており、三陸鉄道や三陸観光をスマホの拡張現実を楽しく体験できることから、若年層の皆さんに三陸地域に関心をもっていただけることを期待していますし、地元、大船渡市の㈲大國物流には、同社の大型冷凍トレーラー6台に三陸鉄道や三陸地域を紹介するラッピングを施し、全国に水産加工品を輸送しながらPRしていただいています。

 そして、今年は連続テレビ小説「あまちゃん」の放映から10周年にあたり、4月からは再放送も実現しました。毎回番組の冒頭から三陸鉄道(物語上は北三陸鉄道)が登場したことから大きなPR効果があったものと考えています。また、この放映10周年を契機に「あまちゃん」ファンの皆さんがクラウド・ファンディングで資金を集め、あまちゃんラッピング列車「三陸元気!GoGo号」が誕生し、4月の出発式には主演の「のん」さんも参加していただきました。内装外装全てに「あまちゃん」の世界が広がる車両は、㈱ポケモンの御支援により6月から運行している「イシツブテ&イワポケモントレイン」と併せ、多くのお客さまに楽しんでいただいています。

三陸元気!GoGo号

5 お客さまの利便性の向上

 三陸鉄道では、現在、スマホアプリ「さんてつアプリ」で、列車が遅れた時の列車の位置が分かる機能をソフト会社と開発していて、今年度中にアプリのバージョンアップ版をお客さまに提供したいと考えています。

 そして、宮古駅では、こ線橋へのエレベーターの設置工事をしています。エレベーターの設置には多額の経費がかかり、多方面からの御協力が不可欠ですが、駅舎のバリアフリー化にしっかり取り組んでいく必要があると考えています。

 また、東北の太平洋沿岸をつなぐ「みちのく潮風トレイル」を歩くハイカーのため、環境省の御支援により三鉄全駅にトレイルマップを掲示しているほか、三鉄の駅から最寄りのトレイルまでの地図冊子「TRAIN & TRAILルートマップ」を作成いただいています。

6 物産部門の強化

 観光と土産は切り離せません。弊社の直営店「さんてつや」及びオンラインショップでは沿岸各地の特産品や車両型目覚まし時計、ペンケースやキーホルダーなど「三鉄オリジナルグッズ」を販売しており、観光客が増えると物産部門の売上も増えています。また、「三鉄プレミアムラガー(㈱ベアレン醸造所)」や「漬け丼の具(道の駅たのはた)」など、毎年、地域の企業や団体と連携した新商品の開発も行っています。

7 結びに~物語が生まれる三陸鉄道~

 12年前の震災後、当時、東京在住の中学校一年生だった男の子は、三陸鉄道を応援しようと千羽鶴を折り久慈駅に届けました。その男の子は今、三陸鉄道の運転士として活躍しています。また、日本鹿との度重なる衝撃に悩まされている運転士のアイデアで「ナイトジャングルトレイン」というツアーができました。三陸鉄道は社内でもこうした物語が生まれていますし、行政や企業・団体からの数多くの支援一つひとつが有難い物語であり感謝しています。

 これからも、山あり谷ありの出来事や厳しい経営環境が続くと思いますが、宮古駅前の「三陸鉄道開通顕彰碑」の碑文「後進よ この業の上に 更に三陸の未来を創造せよ」の実現に向かって、また、弊社のキャッチフレーズ「笑顔をつなぐ ずっと…」を胸に、多くの人たちの笑顔をつなぎ三陸地域の活性化に貢献していきたいと考えています。

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